1.緑内障とは
緑内障とは、眼球内の圧負荷により、視神経が障害されて、視野が欠けていく病気です。
2.眼圧について
眼球の内圧を眼圧といいます。眼球の中の毛様体というところで作られた水(房水)は、虹彩の後ろにある後房という空間から、瞳孔を経由して角膜と虹彩・水晶体との間の前房という空間に出て、角膜と虹彩との間の隅角という部分から、血管系を経由して眼球の外に排出されます。
隅角が狭い場合(閉塞隅角)
隅角の水はけが悪い場合(解放隅角)
眼圧の正常値は10~21mmHgですが、眼圧が正常範囲にあっても視神経や視野に障害を起こすことがあり、これを正常眼圧緑内障といいます。
日本人の緑内障患者さんの7割が、この正常眼圧緑内障であることが分かっています。
日本人の緑内障患者さんの7割が、この正常眼圧緑内障であることが分かっています。
3.視神経・視野が障害されるしくみ
眼圧が高くなると、眼球内の視神経に圧力がかかります。視神経の中の神経線維が圧負荷に耐えられなくなると、神経線維が少しずつ減少していき、その結果として、見えない部分が広がっていきます(視野障害)。神経線維が圧負荷にどの程度耐えられるかは、人によって違うと考えられており、正常眼圧緑内障の患者さんは圧負荷に対して弱い神経線維を持っているといえます。
4.緑内障の症状
なんとなくぼやけて見える、かすむ、という症状に気づかれることがありますが、これらの症状は緑内障に特有なものとはいえず、他の病気でもおこる可能性のある症状です。緑内障に最も特徴的な症状は視野障害ですが、両眼で見ることや眼が細かく動くことで見えない部分が補われるため、かなり進行するまで視野の異常に気づかないことが多いです。
しかし、中には急に眼圧が上昇して激しい症状を起こす急性緑内障というものもあります。急性緑内障は、強い充血とともに急激な視力低下を生じ、激しい眼痛や頭痛、嘔吐を伴うことがあり、急性緑内障発作ともよばれます。短時間で失明に至る可能性があるため、急いで治療を行う必要があります。
5.緑内障の検査・診断
- 細隙灯顕微鏡検査…隅角が広いか狭いかの大まかな見当をつけることができます。隅角を詳しく見るために、隅角鏡という特殊なコンタクトレンズを使った隅角検査を行うこともあります。
- 眼圧検査…眼圧だけで緑内障と診断することはできませんが、緑内障の分類をしたり治療の目安にしたりするために眼圧測定は欠かせません。
- 眼底検査…神経線維が減少すると、視神経乳頭のくぼみ(視神経乳頭陥凹)が大きくなるので、視神経乳頭陥凹の拡大という所見が緑内障発見の手がかりになることがあります。神経線維の減少が進行すると、神経線維の減った部分(神経線維層欠損)が網膜の色合いの変化として分かるようにもなります。
視野検査…目を動かさないで見ることのできる範囲を視野といいます。視野検査は、緑内障性視野異常の程度判定や進行判定に必要です。自動視野計による静的量的視野検査は、初期の緑内障における視野異常(暗点)の検出に優れていますし、緑内障の進行度の判定にも役立ちます。
視野障害が進行していく経過の例
(盲点以外の黒い部分が見えない部分で、これが次第に広がっていきます。)
光干渉断層計(OCT)検査…網膜の断面を描き出すことができるため、神経線維の厚みを測ることができます。通常の眼底検査で捉えることが難しい、わずかな神経線維層欠損を検出することができるので、緑内障の早期診断に役立ちます。神経の障害の程度が分かるので、視野検査と合わせて、緑内障の進行度の判定に役立ちます。
神経線維層欠損のある部分が赤く表示されています。
6.緑内障の治療
緑内障の治療の基本は眼圧を下げることです。眼圧を下げて視神経への圧負荷を減らすことで、視野障害の進行を遅らせることができることが、これまでのデータにより実証されています。眼圧が高くない正常眼圧緑内障でも、治療前の眼圧よりも低い眼圧を保つことで、病気の進行を食い止めることができることが分かっています。緑内障の原因として、視神経の脆弱性(弱さ)や視神経の血流低下など、眼圧以外の要素も考えられていますが、眼圧以外をコントロールできるような治療法は現時点ではありません。
- 点眼治療
眼圧を下げるために、通常は点眼治療を第一に行います。緑内障の点眼薬には、房水の産生を抑える薬や房水の排出をよくする薬などいくつかの種類があり、緑内障のタイプや重症度によって選択します。眼圧下降効果が最も高いこと、1日1回の点眼で十分な効果が得られること、全身的な副作用がほとんどないこと、などの特長から、プロスタグランジン関連薬が最も多く使われています。1剤での治療が理想ですが、眼圧下降効果が不十分な場合には必要に応じて複数の点眼薬を組み合わせて使用します。2つの成分を1本にまとめた配合剤もあり、点眼回数を増やさずにより眼圧を下げることが可能な場合もあります。
プロスタグランジン関連薬は、全身的な副作用は少ないものの、充血のほか、睫毛が濃くなる、眼の周りが黒くなる、上まぶたがくぼむ、などの眼局所の副作用があるため、点眼後に眼の周りに付いた点眼薬を拭き取るだけでなく、洗顔をして洗い流すことをお勧めしています。
プロスタグランジン関連薬の中で、最初に発売されて現在でも代表的な点眼薬の地位にあるキサラタン®の開発に、院長が関わっていたことがあります。何かご質問があればお答えしますので、ご遠慮なくお尋ねください。
プロスタグランジン関連薬に劣らない眼圧下降作用を持ちながら、睫毛が濃くなる、眼の周りが黒くなる、上まぶたがくぼむ、などの副作用がない、新しい点眼薬が発売され、当院でも採用しています。白内障手術後の方には使えないという制約はあるものの、今後に期待が持てる薬です。プロスタグランジン関連薬による眼局所の副作用にお悩みの方はぜひご相談下さい。
点眼治療の効果が不十分なときや、副作用のために計画通りに点眼を続けることができないときは、レーザー治療や手術を行うことがあります。 - レーザー治療
レーザー治療には、房水の出口の水はけをよくする効果があります。手術に比べると負担の少ない方法ですが、眼圧下降効果が限定的で、長期効果はあまり期待できないとされています。 - 手術療法
緑内障の手術療法は、流出路手術と濾過手術の2つに大きく分かれます。
流出路手術は、房水の排出路の流れをよくするもので、線維柱帯切開術が代表的なものです。濾過手術に比べると眼圧下降効果はやや低いですが、手術の合併症は少ないとされています。
濾過手術は、房水の流出路を新たに作る、いわば房水のバイパス手術といえるもので、線維柱帯切除術が代表的なものです。眼圧下降効果は高いですが、眼圧が下がりすぎたり、感染を起こしたり、という合併症のリスクも高いとされています。また、時間が経つと、癒着が進むことで次第に眼圧が上昇してくることもあります。
保手浜眼科では線維柱帯切除術を主に行っており、細胞増殖を抑制する働きのある薬剤を併用して癒着防止を図り、手術の効果を高める工夫をしています。また、白内障を合併している患者さんの場合には、白内障手術と緑内障手術を同時に行います。白内障手術を同時に行うことで、白内障による視力低下を改善できるほか、緑内障手術の効果が高くなる、という利点があります。