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1.網膜剥離とは

眼球の内面(眼底)には、ものの形や光を感じるはたらきをする網膜が貼り付いています。眼球の構造・しくみはよくカメラに例えられますが、水晶体レンズに相当し、網膜フィルムに相当します。
眼球の構造とカメラ
眼球の構造とカメラ



細かくいうと、網膜は、光を感じとるはたらきをする感覚網膜と呼ばれる層と、その外側(強膜側)にあって感覚網膜の土台となっている網膜色素上皮と呼ばれる層の2層からなっています。感覚網膜は、光や色を感じるセンサーである視細胞と、視細胞からの信号を伝える神経線維からできており、光を感じ取るはたらきの本体を担っています。網膜色素上皮は、視細胞に酸素や栄養を与えたり、視細胞からの老廃物を運び去ったりして、視細胞のはたらきを維持する役割を担っています。
網膜の断面図
網膜の断面図



網膜剥離とは、網膜が眼底から剥がれてしまう病気です。もう少し詳しくいうと、感覚網膜が色素上皮から剥がれるのが網膜剥離です。感覚網膜の中の視細胞などが必要としている栄養は、網膜の外側にある脈絡膜(細かい血管が豊富な組織)から網膜色素上皮を経由して供給されています。網膜剥離が起こって感覚網膜が網膜色素上皮から剥がれると、脈絡膜・網膜色素上皮から感覚網膜への栄養供給がとだえるため、視細胞の光に対する感度が低下してしまい、視野が欠けたり視力が低下したりします。
網膜剥離
網膜剥離



2.網膜剥離の分類(裂孔原性網膜剥離・非裂孔原性網膜剥離)

網膜剥離の大半は、網膜の破れ目網膜裂孔)を生じることによって起こります。網膜裂孔が原因となって起こる網膜剥離を裂孔原性網膜剥離といいます。

これに対して、網膜裂孔を伴わない網膜剥離もあり、非裂孔原性網膜剥離といいます。 非裂孔原性網膜剥離は、眼球内の炎症腫瘍や、糖尿病網膜症網膜静脈閉塞症、あるいは糖尿病高血圧腎臓病、などの全身疾患など、なにか別の病気に続発して起きるものが多く、治療には、炎症・腫瘍・糖尿病など、原因になっている病気を治すことが必要です。
網膜剥離の分類
  1. 裂孔原性網膜剥離…網膜裂孔が原因となって起こる網膜剥離(網膜剥離の大半を占める)
  2. 非裂孔原性網膜剥離…網膜裂孔を伴わない網膜剥離
    1. 滲出性網膜剥離 感覚網膜の下に滲出液が貯留することにより網膜が浮き上がって剥離するもの
      1. ①眼球内の病気によるもの(炎症腫瘍、など)
      2. ②全身の病気によるもの(糖尿病高血圧腎臓病、など)
    2. 牽引性網膜剥離 糖尿病網膜症網膜静脈閉塞症などで、新生血管を含んだ線維性の増殖膜ができ、増殖膜が収縮することで網膜が牽引されて剥離するもの


3.裂孔原性網膜剥離のおこるしくみ

網膜剥離の大半を占める裂孔原性網膜剥離のおこるしくみについて説明します。

眼球内部で、水晶体の後方から網膜までの空間には、硝子体という、卵の白身のような透明なゼリー状の物質がつまっています。硝子体は加齢とともに少しずつサラサラした液体(液化硝子体)に変化し、ゼリー状の成分がしぼんできます。通常、60歳前後になると、硝子体が網膜から離れて硝子体と網膜の間に隙間ができます。これを後部硝子体剥離といいます。
裂孔原性網膜剥離


後部硝子体剥離そのものは病気ではありませんが、後部硝子体剥離が生じる際に、硝子体と網膜が強く癒着している部分や、網膜が薄くなっている部分があると、収縮する硝子体に引っ張られるかたちで網膜が引き裂かれ、網膜の破れ目網膜裂孔)ができることがあります。網膜が硝子体に引っ張られている状態で、液化硝子体が網膜裂孔を通って感覚網膜の裏側にまわると、感覚網膜が網膜色素上皮から剥がれていきます。これが網膜剥離です。 後部硝子体剥離による網膜剥離は、中高年者に多くみられます。
網膜裂孔と網膜剥離


近視の度が強い人は、眼球の前後の長さ(眼軸長)がふつうより長いために、網膜が引き伸ばされて薄く変性した部分ができることがあります。また、遺伝的な素因によって網膜に薄く変性した部分ができることもあります。強度の近視や遺伝的な素因による網膜変性があると、その内部に丸い穴(萎縮性円孔)ができることがあります。このほか、スポーツなどで眼球の打撲を受けると、急激な眼球の変形によって網膜裂孔が生じることもあります。 網膜変性外傷による網膜剥離は、比較的若い人に多くみられます。

萎縮性円孔による網膜剥離萎縮性円孔による網膜剥離(矢頭で囲まれた範囲)

4.網膜剥離の症状

網膜裂孔や網膜剥離を生じると、糸くず・ゴミ・虫のようなものがふわふわ動いて見える(飛蚊症)、視野の一部に光が走る(光視症)、視野の一部が見えない(視野欠損)、目のかすみや視力低下、などの症状が起こります。

一方で、これといった自覚症状がなく、眼底検査で網膜裂孔や網膜剥離が見つかることもあります。萎縮性円孔の多くが強度の近視の人にみられることから、コンタクトレンズの定期検査の際に網膜裂孔や網膜裂孔が見つかることがあります。

飛蚊症

飛蚊症は、網膜裂孔ができた際に、網膜血管がちぎれて生じた出血が硝子体の中に散らばり、血液や血の塊の影が網膜に映ることによって起こります。出血以外に、網膜色素上皮が網膜裂孔を経由して硝子体の中に散らばり、網膜色素上皮に含まれている色素の影が網膜に映ることで飛蚊症が起こることもあります。視野の中に煙が湧くように感じることもあります。最初にどの方向から飛蚊症が現れたかが分かると、網膜裂孔を発見する手がかりとして役立つことがあります。

このように、飛蚊症は、網膜裂孔や網膜剥離の症状としてよく知られていますが、網膜裂孔や網膜剥離などの眼の病気で起こる飛蚊症は飛蚊症全体の1割未満で、飛蚊症の9割以上は病気と関係のない生理的飛蚊症です。生理的飛蚊症なのか病気による飛蚊症なのかは、症状の内容だけからは正確に区別することはできませんが、眼底検査をすればこれらを正しく区別・診断することができます。

治療の必要がなく、心配しなくてよい飛蚊症か、治療が必要な飛蚊症か、また、治療が必要な場合はどのような治療を行うか、ということを見分けるために、新たに飛蚊症が現れたときには眼科への受診をお勧めします。

「飛蚊症と網膜剥離」

光視症

光視症は、硝子体が網膜を引っぱる際の刺激が、視覚信号(光)として認識されるために起こります。網膜の中の視細胞は光だけを感じる知覚神経なので、網膜を引っぱるという物理的刺激も光として認識されるわけです。飛蚊症に加えて光視症を感じた場合、生理的飛蚊症ではなく網膜裂孔を伴っている可能性が高く、網膜裂孔の中でも網膜剥離に進行する確率が高いといわれています。

視野欠損

剥離した網膜の視細胞は光に対する感度が低下します。そのため剥離部分に対応する視野が見えなくなります(視野欠損)。眼底ではものの上下左右が逆転して映るので、例えば上方の網膜が剥離すると下方の視野が欠けます。

視力低下

黄斑は網膜の中心にある直径1.5mm~2mm程度の小さな部分の名称で、ほかの部分の網膜に比べて視機能が格段によい部分です。この部分の網膜の働きによって視力が決まります。なので、網膜剥離が黄斑に及んでいないうちは視力が保たれていますが、網膜剥離が黄斑にまで及ぶと急に視力が低下します。黄斑が剥離して浮き上がると、ものがゆがんで見える変視症を自覚することもあります。

5.網膜剥離の治療

網膜剥離は網膜裂孔の周囲から起こり、次第に眼球全体に広がっていきます。網膜剥離が黄斑にまで及ぶと視力低下を生じます。適切な治療をしないまま放置すると、網膜全体が剥がれてしまい失明に至ります。網膜剥離は、入院のうえ緊急手術が必要です。 網膜剥離の手術は、強膜バックリング術硝子体手術に大別できます。

強膜バックリング術
網膜裂孔に対応する強膜の外側にシリコーンスポンジを縫いつけ眼球を内側にへこませて剥離した感覚網膜を色素上皮に近づけます。そうすることで硝子体の牽引を弱め、網膜裂孔の周囲を凝固して網膜裂孔をふさぎます。
強膜バックリング術

強膜バックリング術



硝子体手術
網膜裂孔・剥離の原因となった硝子体を切除してしまう方法です。硝子体を切除し、眼球内の液体を空気に置き換え剥離した感覚網膜を外側の色素上皮に押しつけて網膜裂孔の周囲を凝固して網膜裂孔をふさぎます。手術の終わりに、眼球内の空気を吸収の遅いガスに置き換えます。ガスが自然に抜けるまでの数日間は、うつぶせ姿勢などの体位制限が必要となります。
硝子体手術

硝子体手術

硝子体手術後のうつ伏せ姿勢

硝子体手術後のうつ伏せ姿勢



6.網膜裂孔の治療

網膜光凝固術(レーザー治療)
網膜裂孔が生じても、網膜剥離を生じていない場合は、網膜裂孔のまわりをレーザーで凝固して、網膜剥離への進行を予防できることがあります。網膜裂孔に対するレーザー治療は外来治療でできます。
網膜光凝固術

網膜光凝固術



保手浜眼科では連携病院と共同で治療を行います。入院手術が必要な場合、できるだけ早い時期での手術ができるよう、緊密に連携を取ります。網膜裂孔だけでまだ網膜剥離に至っていない場合には、当院での日帰りレーザー治療が可能です。上記のような症状(飛蚊症、光視症、視野欠損、視力低下)があってご心配な方は、早めにご相談下さい。

入院手術の場合もレーザー治療の場合も、治療後はふだん通りの日常生活を送ることができますが、再発の早期発見のために定期検査が必要です。連携病院での入院治療を受けられた方の場合も、術後の定期検査を当院で受けていただくことが可能です。