ある日の診察でのことです。
先天鼻涙管閉塞の赤ちゃんのお母さんが、不安そうな表情で次のような質問をされました。
「治療に、針金のようなものを通すと聞いたのですが、どのようなことをするのでしょうか?」
このときのお母さんの不安そうな表情が印象に残ったので、同じような思いをされているお母さん達の不安が和らぐことを願って、当院で行っている先天鼻涙管閉塞の治療について説明させていただこうと思います。
これから4回の連載でお送りします。
第1回の本記事では、涙の排出路の構造と、先天鼻涙管閉塞とはどのようなものか,ということについてご説明します。
最初に、涙の排出路(涙道)の構造についてご説明します。
1.涙道の構造
涙は、涙腺から分泌されて眼の表面を潤した後、目がしら付近の上下のまぶたの縁にある涙点(るいてん)という小さな穴から吸い込まれ、涙点から上下2本の涙小管(るいしょうかん)という細い管を通って涙嚢(るいのう)という袋状の部分に運ばれ、涙嚢に続く鼻涙管(びるいかん)という管を通って鼻の奥へと排出されます。
涙点、涙小管、涙嚢、鼻涙管からなる、涙の排出路を涙道(るいどう)といいます(図1)。
(図1) 涙道の構造
2.先天鼻涙管閉塞とは
お母さんのお腹の中で赤ちゃんのからだが形作られていく間には、鼻涙管の鼻腔への出口の部分(下部開口)は膜で覆われていて、まだ鼻腔には通じていません。
赤ちゃんが生まれる頃には下部開口が開通していることが多いのですが、中には下部開口に膜が残り、行き止まりになった状態のまま生まれてくることがあり、これを先天鼻涙管閉塞といいます。
この場合、涙がうまく排出されないため、赤ちゃんがいつもたくさんの涙を目に浮かべているような状態となります。
涙嚢や鼻涙管に貯まった涙はやがて粘液状になり、さらに細菌感染を起こして膿のようになります。
そうすると、こうした粘液や膿からなる「目やに」が多く出て、まつげやまぶたの縁につくようになります。
このようになったものを新生児涙嚢炎と呼びます。
3.先天鼻涙管閉塞の治療
生まれたときにはまだ開通していなかった鼻涙管下部開口が、生まれた後に、赤ちゃんの成長に伴って開通することがあります。
このように、先天鼻涙管閉塞には自然治癒の可能性があるため、特に赤ちゃんが小さいうちはすぐには処置を行わず、経過をみることが多いです。
しかし、赤ちゃんがある程度大きくなっても治癒しないときには、眼科医が治療を行います。
どのような治療法があるのかについては、次回のブログでご説明します。
当院スタッフの手植えによる花の鉢植えです。