眼疾患

閃輝性暗点(せんきせいあんてん)

1.「キラキラした光が視野全体に見えたが,しばらくすると消えた」

ある日の診察でのことです。50代の女性が,「昨日,車を運転しているときにキラキラした光が急に現れ光が視野全体に広がって見えにくくなり,危険を感じたため車を安全なところに止めて休まないといけなかった。」という経験を話されました。その続きは,「しばらく休んでいたところ,幸いにもキラキラした光が収まるとともに見え方も回復した。」とのことでした。キラキラした光が広がって見えにくかった時間は5分か10分くらいだったそうです。

この患者さんが受診されたとき(症状があった翌日)には,自覚的に,キラキラした光は収まっており,見え方もふだんと変わりないとのことでした。診察の結果,両眼とも,視力は良好で,眼底を詳しく調べても,病的なものは何も見つかりませんでした。

 

2.光視症とは

一般に,「光が走って見える」「視野の一部が光って見える」という症状は,光視症といいます。光視症は,網膜剥離網膜裂孔などの際にしばしばみられることが知られています。光を感じる神経でできた網膜が,眼球壁からはがれたり,引き裂かれたりすると,網膜に伝わる外力による網膜への刺激が,光として感じられることによって光視症が起こると考えられています。
網膜剥離や網膜裂孔が自然に治ることはめったにないので,網膜剥離や網膜裂孔による光視症であったならば,自然に消えてなくなることはありません。では,この患者さんには,何が起こっていたのでしょう?

 

3.閃輝性暗点(せんきせいあんてん)とは

 キラキラした光が視野の一部から現れて次第に広がっていくが,しばらくすると光が収まって見え方も元通りになるという症状の内容や時間経過から,この患者さんが経験されたのは「閃輝性暗点」だと思われます。
閃輝性暗点は,「視野の一部に輝く光の点が現れ,ギザギザした『歯車』あるいは『中世西洋の城砦』のような形をした模様が徐々に拡大し,その光によって視野がさえぎられる。」というのが典型的な症状ですが,輝く部分と見えづらい部分が混在して,「水面の反射のような光が見える。」とか,「水槽の底を見ているようにウルウルして見える。」と表現される方もおられます。ときには,「視野の半分が欠けて見える。」こともあります。

閃輝性暗点の一例

その後に頭痛(片頭痛)吐き気が起こったり,気分が悪くなったりするケースが多く,「閃輝性暗点」は「片頭痛」の前兆の一つとされています。一方,頭痛、吐き気などを伴わない閃輝性暗点もあります。
症状はだいたい5分から10分くらいで収まることが多いのですが,30分くらい続くこともあります。いずれにしても,キラキラした光や視野の欠けなどの目の症状がやがて収まることが,網膜剥離や網膜裂孔などの眼底の病気による光視症と大きく異なる点です。

 

4.閃輝性暗点が起こるしくみ

ものを見るしくみは,目と脳の両方の働きによって成り立っています。「光を感じる」のは眼球の内面にある「網膜」の働きですが,網膜は光を感じるセンサーの役割をしているだけで,センサーで電気信号に変換された視覚情報が,視神経などを伝わって脳の視覚中枢に届き,脳が視覚情報を処理・判断することで,「ものが見える」ようになっています。つまり,目(網膜)で光を感じて,脳(視覚中枢)でものを見ているわけです。

「閃輝性暗点」の発生メカニズムはまだよく解明されていませんが,かつては,次のように,後頭葉の血流の変化によって起こると考えられていました。
視覚中枢は大脳の後頭葉にありますが,ここを養っている血管(動脈)が痙攣をおこしたように収縮することがあり,この血管収縮によって視覚中枢が酸素不足に陥ったときに,「キラキラした光」「ウルウルした見え方」「視野の欠け」などの閃輝性暗点の症状が起こります。血管の収縮は一時的なもので,やがて元に戻るのですが,それまで収縮していた血管が拡張して元に戻る際に,脳への血流が一気に増えることによって頭痛を生じます。
最近では,血管の収縮・拡張によるとする説よりも,「大脳皮質神経細胞の機能不全が,視覚中枢がある大脳後頭葉から始まり,徐々に周辺に広がる」という,脳神経細胞の機能不全説が有力となっているようです。

 

5.閃輝性暗点は治療できるか

片頭痛が何度も起こり,頭痛やそれに伴う吐き気や気分不良に悩んでいる患者さんの場合は,閃輝性暗点が起こったタイミングで血管収縮薬を内服することによって,頭痛を軽くできることがあります。血管収縮薬の作用によって,血管が一気に拡張せずにゆっくり拡張すれば,頭痛が起こらずに済むわけです。このように,片頭痛の症状を予防する方法において,内服をするタイミングを知るうえで閃輝性暗点が役に立ちます。

しかし,閃輝性暗点を予防する方法はありません。すでに起こってしまった閃輝性暗点についても,その程度を軽くしたり,持続時間を短縮したりすることはできないのですが,安静にして待っていれば閃輝性暗点の症状はやがて収まります。

 

閃輝性暗点や片頭痛を誘発する因子がいくつか知られています。これらのような発作の誘因になるものを減らすことが,閃輝性暗点の予防に役立つ可能性があります。

  • 身体的・精神的ストレス,睡眠不足,睡眠過多
  • 喫煙
  • 空腹時
  • 月経による女性ホルモン分泌の変化,経口避妊薬(ピル)の常用
  • 強い光,騒音,ある種の香水のにおい
  • 「チラミン」を多く含む食べ物(チョコレート,ココア,チーズ,ピーナツバター,赤ワイン)

ただし,閃輝性暗点の症状が長時間続いて収まらない場合には,後頭葉を養っている血管の閉塞(脳梗塞)の可能性が否定できませんので,早めに脳神経外科に受診されることをお勧めします。